
年金と聞くと、国民年金と厚生年金を思い浮かべる人は多いでしょう。
と同時に、国民年金と厚生年金保険との違いについて、実はよく分からない・・・という人も多いのではないでしょうか。
老後資金を考える上で、国民年金と厚生年金保険の違いについて、きちんと押さえておくことは大切です。
2つの年金についてサクッと説明すると、国民年金は基礎年金とも呼ばれる、20歳以上60歳未満の国民全員が必ず加入することになっている年金です。
一方の厚生年金保険は、国民年金に上乗せされて給付される年金です。
基礎年金とされている国民年金の金額に、厚生年金保険の受給額が加算され、合計金額を受け取ります。
厚生年金保険の対象者(被保険者)については、以下を参照してください。
厚生年金保険の被保険者
厚生年金保険の被保険者は、当然被保険者と任意加入被保険者に分けられます。
厚生年金保険の被保険者は、従来は主に企業に勤務するサラリーマン(会社員)でしたが、平成27年10月からは、被用者年金制度の一元化によって、公務員および私教職員も厚生年金保険に加入することになりました。
当然被保険者
適用事業所に使用される70歳未満の人は、原則としてすべて厚生年金保険に加入し、被険者となります。
ただし、適用事業所に使用されていても、下記1~5に該当する場合には適用除外となります。
- 臨時に使用される者で、1ヶ月以内の期間、日々雇い入れられる者
- 臨時に使用される者で、2ヶ月以内の所定期間を定めて使用される者
- 所在地が一定しない事業所に使用される者
- 季節的業務に4ヶ月以内の予定で使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)
- 臨時的事業の事業所に6ヶ月以内の予定で使用される者
いわゆるパートタイマーについては、その呼称に関係なく、その事業所に使用される正社員と比較して、労働時間または労働日数が概ね3/4未満であれば厚生年金保険の適用対象となりませんが、1日または1週間の労働時間および1ヶ月の労働日数が正社員の概ね3/4以上(一般的に労働時間が30時間/週 以上)であれば、厚生年金保険の適用対象となります。
また、平成28年10月1日より、労働時間・労働日数が3/4未満の短時間労働に対して厚生年金保険の適用範囲が拡大されました。
具体的には、週の労働時間が20時間以上・月額賃金が8万8,000円以上・従業員(被保険者)数が501人以上の企業(特定適用事業所)などの要件を満たせば被保険対象となりました(ただし学生は除く)。
さらに、平成29年4月1日からは、労使で合意がなされれば、常時500人以下の企業でも、同様の用件を満たせば、申出により適用対象になることができるようになっています。
被保険者の種別
被用者年金制度が一元化されたことにより、平成27年10月1日から恩給法に規定する公務員および公務員とみなされる者、共済組合の組合員、私立学校教職員共済制度の加入者が、適用除外から削除されました。
つまり、そういった人たちが厚生年金保険法の被保険者となり、2階部分の年金は厚生年金保険に統一されたのです。
そのため、新たに厚生年金保険の被保険者の種別が以下のとおりに定義されました。
- 第1号厚生年金被保険者(一般厚生年金被保険者):従来からの厚生年金保険の被保険者(つまり第2号~第4号以外の者)
- 第2号厚生年金被保険者(国共済厚年被保険者):元国家公務員共済組合の組合員
- 第3号厚生年金被保険者(地共済厚年被保険者):元地方公務員共済組合の組合員
- 第4号厚生年金被保険者(私学共済厚年被保険者):私立学校教職員共済制度の加入者
各種別ごとの組織は、一元化前と同様、被保険者の資格管理・保険料の徴収・年金額の決定・年金証書の発行・年金の支払い等、厚生年金の実施機関としての事務を行います。
任意加入被保険者
適用事業所以外の事業所に使用されたり、70歳以後に事業所に使用されたりする場合は、強制被保険者とはなりませんが、一定の要件を満たすことにより、厚生年金保険に任意加入することができます。
要件および負担についての詳細は下表を参照してください。
名称 | 要件 | 保険料負担 |
任意単独被保険者 (厚年法10) |
用事業所以外の事業所に使用される 70歳未満の者で、事業主の同意を得て 厚生労働大臣の認可を受けた者 |
事業主と被保険者で折半 |
高齢任意加入被保険者 (厚年法附則4の3) |
適用事業所に使用される70歳以上の者 で、老齢(退職)年金の受給権がなく、 厚生労働大臣に申し出た者 |
全額自己負担 (事業主の同意があれ事業主が半額負担) |
高齢任意加入被保険者 (厚年法附則4の5) |
適用事業所以外の事業所に使用される 70歳以上の者で、老齢(退職)年金の 受給権がなく、事業主の同意を得て厚生 労働大臣の認可を受けた者 |
事業主と被保険者で折半 |
厚生年金保険の適用事業所
厚生年金保険は、事業所または船舶を単位に適用され、厚生年金保険が適用される事業所を適用事業所といいます。
そして、適用事業所には、強制適用事業所と任意適用事業所があります。
強制適用事業所
厚生年金保険の加入が義務づけられている事業所を強制適用事業所といいます。
具体的には、以下に挙げる事業所を指します。
- 常時従業員を使用する法人または国・地方公共団体の事業所または事務所
- 常時5人以上の従業貝を使用する法定16業種の個人事業所または事務所
- 船員法1条に規定する船員として、船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶
なお、法定16業種とは、厚生年金保険法で定められた下記の16種類の事業です。
- 物の製造、加工、選別、包装、修理または解体の事業
- 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体またはその準備の事業
- 鉱物の採掘または採取の事業
- 電気または動力の発生、伝導または供給の事業
- 貨物または旅客の運送の事業
- 貨物積みおろしの事業
- 焼却、清掃またはと殺の事業
- 物の販売または配給の事業
- 金融または保険の事業
- 物の保管または賃貸の事業
- 媒介周旋の事業
- 集金、案内または広告の事業
- 教育、研究または調査の事業
- 疾病の治療、助産その他医療の事業
- 通信または報道の事業
- 社会福祉法に定める社会福祉事業および更生保護事業法に定める更生保護事業
※法定16業種以外の個人事業は、常時5人以上の従業員がいても強制適用事業所とはなりません。
任意適用事業所
強制適用事業所以外の事業所では、被保険者となる予定の者の1/2以上の同意を得た上で事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受けることによって、任意適用事業所として厚生年金保険の適用が受けられます。
また、任意適用事業所は、被保険者の3/4以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所から脱退することができます。
任意適用事業所になることができるのは、次のような事業所です。
- 常時5人未満の従業員を使用する法定16業種の個人事業所または事務所
- 法定16業種以外の個人の事業所または事務所
法定16業種以外の事業としては、農林水産業・畜産業・サービス業・法務業(弁護士・税理士・社会保険労務士等の事務所)等が該当します。
適用事業所の一括
店舗や営業所が2以上ある場合、それぞれの事業所で厚生年金の手続きをするのは、業務管理上煩雑です。
おそらく、本社などで一括して手続きを行う方が効率的なことが多いでしょう。
事業主が同一である場合は、厚生労働大臣の承認を受けて、店舗や営業所を本社等と一括することができます。
ちなみに、この場合には、それぞれの店舗や営業所は適用事業所でないものとみなされます。
船舶についても同様で、2以上の船舶所有者が同一である場合は、当該2以上の船舶は1つの適用事業所として扱われ、それ以外の船舶は適用事業所でないものとみなされます。
ただし、船舶の場合には、厚生労働大臣の承認を受ける必要はなく、法律上当然に一括することが可能です。